眼科の検査、診察は映像で一目瞭然になるものが多く、ご自身の症状を知る上で大変役に立ちます。 そんな眼科医の心強い味方である近頃の検査機器について、実際の撮影図を交えながらご紹介させていただきます。
OCT(光干渉断層計)
OCTとは光の干渉性を利用して、内部の構造を高分解能・高速で撮影する技術です。
体の色々な部位の検査に用いられるCTスキャンと原理は同じです。
網膜や視神経の状態を顕微鏡に匹敵する分解能で撮影でき、解析ソフトを使ってどの断面でも映像化する事ができます。
網膜や視神経の状態を3次元的に捉え、異常な点がないか探ります。
まず、正常な網膜でOCTを撮った場合を見てみましょう。
左側に眼底写真、右側に縦横8か所の網膜の断層が見えます。
中の上下2つは左に矢印で示された箇所の断層を拡大したものです。
中央のなだらかな凹みは黄斑部(中心窩)に問題がなく、 断層のくっきりとした縞模様は網膜が健康な印です。
では網膜に異常がある場合、OCTを撮るとどのように映るのでしょうか?
実際の撮影図をもとに見てみましょう。
<網膜>
中心性漿液性網脈絡膜症
こちらの方は、右目の中心がぼやけて見えるとの事で来院されました。
眼底カラー写真を撮ってみると、
上の写真のように矢印で示した範囲で丸い腫れが見えます。
右側にある丸い視神経乳頭に比較して縦横1.5倍ほどです。
OCTを撮ってみました。
中心(黄斑部)に、網膜が一部を残して浮き上がっているのがわかります。
写真の下方にある脈絡膜側からの漏出液が貯まっているためです。
下図で底面中央近くの色が一部濃くなっており、ここが漏出点であると考えられます。
網膜剥離
こちらの方は眼鏡屋さんで左眼の視力が悪い点を指摘され、眼科医受診を勧められて来院されました。
図左の視神経乳頭の下部から斜めにかけて境界線があり、黄斑部を含む下方が薄く灰色がかり網膜にシワが寄っているのが見えます。
境界線に色素沈着がある事から古い網膜剥離の可能性があります。
OCTを撮ってみました。
境界線から下方の網膜が浮き上がっているのがわかります。
すぐに大学病院を紹介し、陳旧性網膜剥離と診断され手術を受けられました。
それから約1年後、経過観察目的で再度来院されました。
浮いていた網膜は正しい位置に戻っています。
しかし網膜の縞模様は薄く、下方のラインの色調も薄くなっています。
剥離した期間が長かったため、残念ながら良好とまではいかないものの、視力はやや回復されました。
網膜前膜
こちらの方は診察で左眼黄斑部に薄くキラキラした反射が確認できました。
ご本人には自覚症状はなく、矯正視力は1.2でした。
網膜前膜という、網膜の一部である黄斑部に膜が張ってくる病気である可能性があり、
将来的に手術の可能性も踏まえながら、経過を観察することになりました。
一年経たないうちに、左目で文字が歪んで見える症状が出始めました
左の視神経乳頭から赤く見える黄斑部にかけて引っ張られたようなシワが見え、
右側に薄く白っぽい膜様のものが見えます。OCTを撮りました。
中心(黄斑部)が盛り上がり網膜の上面がささらになっています。
矯正視力は0.9でした。
症状が進行して矯正視力が0.6となり、手術を決心されました。
術後約半年のOCTです。
まだ中心窩のくぼみは腫れて中心のくぼみは回復していないものの、上面のささらはなくなり、網膜の縞模様も整ってきています。
矯正視力も1.2に回復されました。
層状黄斑円孔
こちらは脳梗塞の後遺症で半身麻痺があり、単純糖尿病網膜症の経過を見ている方です。
黄斑部が薄くなって穴が開いているように見えます。OCTを撮りました。
中央に虫食い状に穴が開いていますが、
網膜の一番下までは欠損していない事がわかります。
矯正視力も来院されてからずっと0.8に保たれています。
真性の黄斑円孔なら網膜全層が欠損し、視力も出ません。
網膜硝子体界面症候群とは?
眼球の内部は硝子体といって水分を含んだゼリーのようなもので満たされています。
硝子体は網膜の内側に接していますが、
年齢と共に硝子体が縮んで網膜から離れていきます。
よくある飛蚊症はこの時に離れた硝子体膜の一部が眼球内に浮遊して網膜に影を落としてみえるのです。
うまく網膜から離れてくれると良いのですが、時に網膜の一部を引っ張って周辺部では網膜裂孔の原因になる事があります。
中心の黄斑部から視神経乳頭周辺で起きると、網膜前膜や黄斑円孔、偽黄斑円孔、
硝子体黄斑牽引症候群など、網膜硝子体界面症候群と総称される現象がおこります。
上の網膜前膜、層状黄斑円孔はいずれも網膜硝子体界面症候群の中に入ります。
OCTを撮る事でその現象がより良く理解できます。
<視神経>
原発開放隅角緑内障
OCTは網膜だけでなく、視神経の異常を探ることもできます。
こちらは正常な視神経と、原発開放隅角緑内障の方の視神経のOCTです。
下の画像はすべて視神経の状態を示しています。
今回は上段右2つ(A B)の画像に注目してみます。
まずAの画像をご覧ください。
中央の黒い丸は視神経、そこから伸びる黒い線は血管を示しています。
原発開放隅角緑内障のOCTには赤い帯状の部分が表示されています。
これは網膜で見た映像を視神経に伝える役割を持つ、視神経線維が欠損していることを意味します。
この欠損ができると視野が狭まるなどの影響が出てきます。
次にBの画像をご覧ください。
緑内障の方は正常な方と比べると、黒い部分がずっと大きいのが分かります。
右の数値で確認すると、黒い部分の割合が正常の方は全体の39%なのに対し
こちらは92%を占めています。
(『verticalCDR』という項目です)
Bの画像は視神経乳頭とくぼみの状態を示しています。
視神経乳頭とは視神経が眼球と脳をつなぐ為、眼球の奥で脳に向かって突き出ている部分のことです。
黒い部分はそこにあるくぼみです。
視神経乳頭の中央はもともと少し凹んでおり、そのくぼみが標準よりも大きくなると、緑内障の可能性が高まります。
このようにOCTを撮ることで、網膜や視神経の状態を一目瞭然で知ることができます。
定期的な眼科検査の受診を、ぜひおすすめいたします。